Hiroshima University Institute of Biomedical & Health Sciences
Department of Cellular and Molecular Biology
細胞外小胞・エクソソーム
Exosome
体内にある細胞から分泌されるものとして細胞外小胞が注目をあびている。細胞外に分泌される脂質二十膜構造の小胞は、「エクソソーム」とよばれる50-150nmほどのウイルス様の顆粒から1000nmまで様々な大きさのものが知られている。エクソソームは、血液、母乳、精液、唾液、髄液など様々な体液中に多数存在しており、細胞間のコミュニケーションツールとして働いていることが明らかになり、世界中で注目をあびている。受精の成立には、卵子から出されるCD9陽性のエクソソームが必須であるし、生まれてきた赤ちゃんが飲む母親の母乳にも多数のエクソソームが存在し赤ちゃんの免疫増強にも関与している。細胞外小胞の顆粒中には、非コードRNAであるマイクロRNAが含まれていることが明らかになっているが、母乳中にあるエクソソームは免疫に関わるマクロRNAが多数含まれるなど生物学的にも非常に興味深い報告が多数見られる。
細胞間コミュニケーションとしての機能
エクソソームは、生体内の細胞から分泌され、血液など体液を介して細胞間を移動するコミュニケーターであるが、老化との関わりが少しづつ明らかになってきた。老化すると細胞から分泌されるエクソソームの性質や分泌量も変化する。アルツハイマー型認知症などでも疾患の発症においてエクソソームの関与が示唆されるなど、老化疾患の隠れたメジャープレイヤーとして機能している可能性が出てきた。老化に関する研究は、遺伝子発現やタンパク質の変化などの研究蓄積があるが、それらの制御にもエクソソームやマイクロRNAの関与が考えられる。
老化における エクソソーム
個体全体におこる老化現象である個体老化に対して、細胞の形質や機能の退行的変化、それに続く分裂停止に至る過程は細胞老化 (Cellular senescence) と呼ばれ、細胞老化の研究は個体老化のメカニズム解明に繋がると考えられている[1]。
老化を迎えた細胞の特徴としては、細胞が大きく扁平な形態を呈し、染色体のヘテロクロマチン構造や、 β-ガラクトシダーゼ活性が上昇するとともに、テロメアの短縮による DNA 損傷応答とそれにともなう p53 の活性化、そしてp21の発現が上昇する等が知られている。生体内においてはがんの初期 (前がん病変部) では細胞老化特異的なマーカーが検出されることから、発がんストレスに反応して細胞老化が誘導されることを示している。一方で、老化細胞は Senescence-Associated Secretory Phenotype (SASP) と総称されるサイトカイン類を分泌し、生体内で炎症を引き起こしたりがんの発生を促進することも報告されている[2]。
我々は細胞老化を新たな視点から探求することを目的とし、老化細胞から分泌される エクソソーム の機能解析を行った。その結果、老化細胞は継代早期の細胞と比較して、より多くの エクソソーム を分泌していることが明らかになり、またその エクソソーム は正常細胞には大きな影響を与えないものの、がん細胞の生存能や浸潤能を抑制ことが示唆された。さらに、継代早期の細胞と老化細胞それぞれの細胞における miRNA、および exosomal miRNA のプロファイルから、老化細胞では特異的に選択された miRNA が エクソソーム 中に内包されて細胞外に分泌されていることも示唆された。
以上から、老化細胞由来 エクソソーム はがん抑制的な働きを有し、老化細胞による エクソソーム を介したパラクリン性のがん抑制機構が示唆された。加齢により増加する エクソソーム が、がんの進展に抑制的に機能していることは、がんの微小環境における エクソソーム の重要性を示す知見である。